海外に住む人なら理解してもらえるだろう、手に入る日本語の本はとにかく何でも読んでみる、という経験。自分の好みとは関係なく読み散らした本について書き散らす備忘録的ブログ。パリ在住なのでフランス語の本も多数。
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Annie Cohen-Solal 「Leo and His Circle: The Life of Leo Castelli」
 これはアート市場とかアートブームとか作品がどうやって商品になってくか、ってことに興味がある人にはおもしろい本。サルトル専門家として有名なAnnie Cohen-Solalは、若い頃在米フランス大使館の文化部門を牛耳ってたらしく、そのときにレオ カステリと親交を深めたそう。

「「ギャラリスト」という職業を創った男」と呼ばれるレオ カステリは、50歳を過ぎてから本格的に自分のギャラリーをニューヨークに持って、当時アメリカ中を支配していたポロックやロスコーに代表される抽象表現主義のあとに来るポップ アートの立役者の一人。というかポップアートを商業的に成功させたのはこの人と言えるんではないでしょうか。

ちょうど去年の今頃フランス語版が発売されたときに手に入れて、それからちょこちょこと読んだり、だだーっと読んだり、挫折して読むのをやめたりした本。なぜ一度挫折したかというと、結構長いこの本の前半部分はずっとレオの少年時代、というか彼が育ったイタリアのトリエステの歴史的ポジションやら、レオの両親のことなんか、「うーん、微妙に興味ないかも」ということが多くてやめてしまった。私が働いているギャラリーのボスに「カナ、レオの本読んだ?」と聞かれて「いやー、それが最初のとこで挫折してしまってー」と正直に言ったら、「あーそうかも。私たちの年代のヨーロッパ人には興味深い部分でも、カナにとっては違うかも。ニューヨークのとこから読んだら?」と言われ、ニューヨークのところからもう一度始めてみた。というかほんの少しさかのぼって、パリのヴァンドーム広場でレオが友人とギャラリーを始めたところから読み始めた。

私は前に一度、クロード ベリがレオ カステリをインタビューしたドキュメンタリー映画の会話が文章にしてある本を読んだことがあったのと、もちろん現代アートの世界に端っこのほうながらも関わっていく上でレオ カステリの存在はすごく強くて、彼が成したこと、彼の性格なんかを聞いたことがあった。でもやっぱりきっちりと伝記を読むのは全然違う。もちろんどの伝記でもそうなんだろうけれど、レオ自身の人生だけではなく、その時代背景や社会の反応などもすごくわかりやすく盛り込まれていて、とてもおもしろかった。それこそラウシェンバーグとジャスパー ジョーンズの日常だったり、彼らとレオの最初の出会い、ポロックが大酒飲みだったこと、アルフレッド バー Jrがどんな風にMOMAを創ったか、ニューヨークがどのようにして芸術の首都にのしあがったのか、ベネチアビエンナーレでの賞レースなどなど。作品を見て、美術史を勉強して、そういうことはもちろんアートに興味のある人ならしていると思うけれど、その背景を知るともっと面白い。そしてそれが現代アートに関していうならば、「自分はそのときまだ何歳だったなあ。」なんて同時代の話なので非常に実感が湧くし、写真なんかのアーカイブや証言の量がずっと豊富でおもしろい。

私は数年前に生まれて初めてニューヨークに行った。そのときは私の働くギャラリーからの出張で、もちろんボスもいたし、他のギャラリストなんかも一緒で、「ニューヨークが初めてのカナを案内するアートツアー!」みたいな感じになっていた。有名なギャラリーの歴史や、誰と誰がいつごろつき合ってたなんていうゴシップネタまで満載で、おもしろい話がたくさん聞けたわけやけど、そのなかでもやっぱりレオ カステリの存在は大きかった。「ここがレオがSOHOに開いたギャラリーね。ほんで○○階にソナバンドが入ってて、、、」「レオがSOHOに行く前はここでやってたのよ、ギャラリー」だとか、「彼女は昔レオとつき合っててね」とか。そうね。私にとってはもう大昔の偉人のように感じるけれど、彼と一緒に仕事をした人なんてまだまだ五万といるくらい、彼は私の同時代人なんだ。と実感した。レオ カステリがいなくてもニューヨークのアート界は存在するけれど、レオ カステリがいたからこそあるニューヨークのアート界っていうものも確実に存在する。


| 10:46 | アート | comments(1) | trackbacks(0) |
My Name is Charles Saatchi and I Am an Artoholic
評価:
Charles Saatchi
Phaidon Press
¥ 746
(2009-11-04)

これはトイレもしくはメトロに最適の本。

サーチさんをご存知だろうか。 若くてサーチ エンド サーチという広告会社を立ち上げてそれがあたりにあたって億万長者になったイギリス人。アート好きが億万長者になったので現代アートを買いまくり。そのうえ自分のコレクションを見せるためのギャラリーまで運営しているという。ギャラリーとは言え、その建物の規模は地方の美術館並み。そのうえ無料ときたもんだ。
サーチギャラリーのサイトでは、世界中の自称他称アーティストが自分の作品画像を載せることができるので、若手アーティストたち目録みたいになっているけれど、もちろん「誰でもが」載せられるのでそのレベルは様々。2010年のいまとなってはよくあるサイトのように感じるかも 2006年に彼が始めたときは「おお!」と思ったのを覚えてる。
最近ではリアリティーショーのアーティストバージョンをBBCと組んで作るらしいが、そういう「なんでもこい!」なスタンスが、私は結構好き。

でもこの人、アート界泣かせでもある。まあ、コレクターなんだから自分が所有している作品は好きにしてもいいという自由が彼には絶対的にあって、そして彼の持ってるお金なんだから、どの作品に自分のお金をどれだけつぎ込むのかという自由も彼に絶対的にある。
でも買い過ぎでお金持って過ぎなのと、そのやりかたが派手なので、もちろん反感も買うし影響力も良い方にも悪い方にも強い。
例えばオークションでそんなに高値でないアーティストの作品をどこまでもどこまでもつり上げて競り落としたり(もちろん競る相手がいての結果なわけですが)、ある若手アーティストの作品を買い漁ってすぐに、同アーティストの作品を全てアート市場に流して相場価格を崩壊させたり。若手アーティストたちにとっては「サーチに作品を購入される」ということは、ひとつの素晴らしいステイタスであり相場価格が数倍にはねあがる瞬間であると同時に、彼の気持ち一つで自分のアーティストキャリアがぐちゃぐちゃに破壊されるかもしれないという恐怖が伴う瞬間でもある、と言える。

ま、一言で言ってしまえば、「下品」なんですね。でもまあこの世界で誰が下品でない?私は現代アート界でやってきたいと思っている人間ですが、上品でエレガントなことしかやってない人は皆無ですね。ま、多分どの世界も一緒だと思うけど。

さてさて本題。そんなサーチさんはマスコミが大騒ぎして書きたてるようなことばーーっかりしてるけど、マスコミには全然顔を出さない。そんな態度が余計みんなの心を逆なでする億万長者のおっさんが、「どんな質問にも答えましょう」という本。インタビュー本ではないので、話がつながってるわけでもなんでもなくて、本当にしょうもない短い質問が大半。
まあでもサーチさんが世の中のどんなことを面倒くさいと思ってるのかとか、どういう視点を持ってるのかとか、なーんとなく垣間みれるような気がして、最後まで楽しく読めた。

そのなかでもいくつか私の頭に残ったものがこちら。別に興味深くてという意味ではなく、思わずにやっと笑ってしまった感じのフレーズ。

-Does it matter that many pieces are now made by assistants rather than the artists themselves?

Like what Rembrandt and Rubens done, you mean?

-Which art dealers do you like? 

Lao Castelli のことに触れたあと、
I adore Larry Gagosian, but I always hear the theme music from Jaws playing in my head as he approaches.

あともうひとつあったんだけれど、どこに書いてあったか見つからない。私の記憶では、
「あなたのような売買をして、現代アート市場を動かしているつもりですか」的な質問に、
「市場というのは、アートでも掃除機でもモノが売買される場所に存在する。ただそれだけだ。」みたいなことを答えていて、日本では「アート市場がない」などと嘆く声が多いけれど、日本のアート市場はいまそこで売買されている状況がそのままマーケットなわけで、別に「ない」わけでは決してないな、と思ったのでした。


ちなみにサーチさんに聞きたいことがある人は、質問募集中ということなので、下記のアドレスに質問を送れば、もしかしたらこの本の続編やら第二弾やら、なんらかの企画で答えてもらえるかもしれませんねー。
pkapublishing@googlemail.com


| 18:50 | アート | comments(0) | trackbacks(0) |
Andy Warhol + Pat Hackett 「POPism : The Warhol Sixties」/ 「ポッピズムーウォーホルの60年代」
評価:
Andy Warhol,Pat Hackett
Penguin Classics
¥ 1,065
(2007-10-12)

評価:
アンディ ウォーホル,パット ハケット
リブロポート
---
(1992-04)

数週間前にすーーーっごく面白い本に出会った。
それから「ポップに生きろ!」というのが夫と私のスローガン。

よく考えたらアンディー ウォーホルほど回顧展がしょっちゅう開催されるアーティストっていないと思う。私がフランスに来てから見たもので、今思いつくのだけでも5つもある。それにプライベートギャラリーで行われるウォーホルのコラージュ展、写真展、ドローイング展などをあわせたら、私が見たものだけでも両手で足りないほど。プラス見に行ってないもの、それこそ開催されたことも知らない展覧会なども世界中にあるんだから、いまでもピカソに匹敵するくらいのアート界のスターであると言えるわけだ。

ウォーホルのことは知ってるようで知らない。それを思い知らされたのは、年末年始に行ったロンドンで開催されていた「Other Voices, Other Rooms」展だった。評判が良かったこの展覧会。どうしても行きたくて会期終わり頃に滑り込み。ウォーホルが60年代後半から80年代に至るまでに製作した映画やテレビ番組を中心に、ポラロイド写真、インタビューテープなどのアーカイブ盛りだくさんの本当に興味深い展覧会だった。ここで「もっとウォーホルを取り巻いていた環境について知りたいな。」と思った。
そして一ヶ月ほど前にグランパレで見た「Le Grand Monde d'Andy Warhol」というウォーホルの手がけたポートレートを中心にした展覧会で、そのポートレートの主題となる人物たちに興味が出てきて、この展覧会のキュレーターであるアラン キュエフが書いた本を読もうと図書館で探したけれど見つからず、結局彼が序文を寄せている、このアンディー ウォーホルが60年代を語る自伝「ポッピズム」を手に取ったというわけ。

アンディー ウォーホルのことをよく知らなくても、ポップアートのことを詳しく知らなくても、この本は本当に面白い。60年代のアメリカ、ニューヨーク、音楽、ファッション、ドラッグ、ヒッピー、アンダーグラウンド映画などなど、当時のカルチャーシーンに少しでも興味のある人には読んでほしい、心からおすすめの本。

もちろん当時最前線のコンテンポラリーアートシーンにいたジャクソン ポロック、フランク ステラ、ジム ダイン、エルウォース ケリー、クラウス オルデンバーグ、ロイ リキテンシュタイン、ロバート ラウシェンバーグ、ジャスパー ジョーンズなどのアーティストたちから、レオ カステリ ギャラリーのディレクターだったイヴァン カルプやウォーホルの大親友でメトロポリタン美術館のキュレーターになるヘンリー・ゲルツァーラー、アンディーのミューズであったイーディ、ニコ、それから60年代のニューヨークにその若さを彩るボブ ディラン、ヴェルヴェット アンダーグラウンド、ミック ジャガー、はたまたジュディー ガーランド、デニス ホッパーなどなど、ファクトリーの住人以外にも、同時の有名人やポップカルチャーやコンテンポラリーアートを創ってきた人物たちがたくさん登場する。私が今パッと思いだせる人たちだけでもこんなに。ジョナス メカスも登場しまくり。

それ以外にも、60年代というものがあらゆる思想や反抗精神、社会批判や主張の誕生するときであったことに、いままで知っていたはずなのに、改めて驚かされるというか感心させられる。ウォーホルがファクトリーで生きた60年代。ケネディー暗殺やヒッピー ムーブメントなどが、彼自身の視線で語られる。

私は序文を順番に読まずに、いつも本文を読み終わったあとにあとがきのように読む習慣がある。本文を読んでいるあいだに、ウォーホルが自分の恋人たちについて一切触れていない点や、まるで彼がいくつかの有名すぎるほど有名なスクリーンプリントとアンダーグランド映画しか製作していない(だってウォーホルほどドローイングやコラージュを数限りなく製作したアーティストもまた少ないと思うから。)かのように書かれている部分には疑問を持っていた。序文をあとから読むとアラン キュエフはそこにも言及していたし、またもうひとつ、ウォーホルはこの本でまるで1960年からアーティスト活動しかしていないように語っているけれど、本当は1950年くらいまでは広告デザイナーとしての仕事も続け、それでファクトリーにいついている何人もの若者を養っていたらしい。やっぱり序文を最後に読んでよかったーーー!そういうのを最初から知ってるとあんまり面白くないしね。と言いながらネタバレさせてるけど。

そういうことからもわかるように、これはアンディー ウォーホルがアーティスト活動を本格的に始める1960年からファクトリーを訪問した女性に撃たれる1969年までを語った自伝ではあるけれど、彼自身についての叙述は少ない。ウォーホルがファクトリーの住人たちと過ごした毎日、一緒に行った展覧会、映画上映会、ナイトクラブ、彼が「スーパースター」と呼ぶ取り巻きの人物像や性格、日常が、冷静にかつ冷酷なくらいに客観的に語られている。


実際に生きた(もちろんいまも生きている人たちもたくさんいます)人たちの話となると、それぞれの名前に顔をくっつけたくなるというのが人間というもの。そんなわけで、この本と一緒に楽しむといいサイトと本を紹介。

ファクトリーに出入りしていたSuperstarたちや製作された映画を網羅したサイトはこちらから。ウォーホルの視点で書かれた本と、そこで語られたことが「アーカイブ」や「情報」として載っているこのサイト。私は一緒に楽しみました。

そしてもう一つ一緒に楽しめておすすめなのは、上に書いた、私がロンドンで見たアンディー ウォーホルの「Other Voices, Other Roomes」展のカタログ。この展覧会はいままでスクリーンプリントの作品ばかりが評価されてきたウォーホルが製作した映画やテレビ番組に焦点をあてたもの。めちゃくちゃおもしろかったので珍しくカタログを買っていたんやけど、なんかほったらかしにしていて、「ポッピズム」を読みながら、同時にぐんぐん読めた。写真も満載!

そんなわけでここ数週間、私と夫は毎日ウォーホルのこと、ポップアートのこと、60年代のこと、ヒッピーのこと、イーディのこと、ニコのこと、ボブ ディランのこと、ヴェルヴェットアンダーグランドのこと、レオ カステリのこと、その他数えきれないほどのファクトリーの住人の話で持ち切り。

一人でこの本を読むのもいいけど、誰かと同時期に読んでおしゃべりするのもすごく楽しい、「ポッピズム」です!




| 09:48 | アート | comments(0) | trackbacks(0) |